3枚の「蒼い気層」

中野和典展〜3月30日まで
蒼い気層と名付けられた3枚の絵がある。

壁から抜け出てきたゾウが眼に怒り蓄え、耳を大きく広げ、鼻を右へ大きく振ろとしている。「牙が折れているから救われる」この絵を見た人は言った。このゾウが鋭い牙を持ち振りかざしていたら、とても怖い絵になっていただろう。ところがこの絵は怖くて,それでいて何処か滑稽だ。意地悪そうに人形を手繰っている子供がいる。そしてひもの先にある人形の顔は子供だ。木の上の猿はこれから始まることを可笑しそうに見ている。そして、は虫類が「クエッ」と声を立て、子供が鼻の上で逆立ちをする。果たしてゾウは怒り込めて、どこへ行こうとするのか、それとも行けないのか。可笑しくて怖い絵だ。

もう一枚の「蒼い気層」はとても静かだ。ゾウの頭の上で子供が笛を吹く。澄んだ笛の音がゾウの生きる世界に響く。少女は丸い輪を振って応える。腫瘍が大きくなり開花したような白い花。ゾウの鼻は垂れ下がり、猿は悲しそうにゾウの最期を見ているように見える。そして、3枚目の「蒼い気層」。このゾウはもう土と一体になろうとしている。鼻と牙が生の痕跡を残している。眼の部分は陥没し、このゾウの記憶は暗い穴の中にある。

しかし、私はこの絵に滅びの匂いを感じなかった。それはゾウであったものの左右に散らばっている気泡のような白い点だ。気泡は白だけではない。よく見るとあちらこちらに散らばっている。毛虫はもそもそと体を前後させている。蛙は次の瞬間、口を大きく開けて舌を大きく伸ばすのだろうか。
3枚の「蒼い気層」ゆっくりと見に来て欲しい。

さて、オープニングで演奏していただいたピノエテルナのお一人である松永一文さん。当日、湿気が多くて弦が指にまとわりつく感じだったそうです。雨上がりで湿気が多かったこともありますが、少し部屋を除湿しておけば良かったと反省しています。一級の音楽家は演奏が高度なだけに、微妙な湿気や微妙なコンデションの違いで指使いが変わってくるのだなと改めて認識しました。
さて、次回は若き音楽家のブログを紹介します。