鶴見緑地の蓮 -Yさんの写真-

 時々来られるお客様に84才になられる男性のYさんがいる。Yさんは写真を2年前から始めて、ということは82才から、重い一眼レフを持ってお花を求めて出かける。Yさんが撮る花の写真はとても艶っぽい。先日は「これからデートに行く」と言って、ふうらでビールを飲んで行かれた。そのときはスーツを着ておられ、飲み終わったあと背筋をまっすぐ伸ばし、少し大股でさっそうと出て行かれる。とにかくかっこいい。ああいう風にならなくちゃ、と思ってしまう。Yさんは北海道生まれ。大学に在学中、東京大空襲にあっている。ぜひともその話はゆっくり聞きたいと思っている。
 しばらく前になるが同人誌を主宰している佐久間慶子さんから「繋」3号を送っていただいた。その中で佐久間さんが書いた小説「炎抜け」ある。この小説は戦争下で花街に生きる女たち、そこで働く母を持った少女、そこに襲いかかってくる東京大空襲とその後を舞台にしている。戦争下でどのように生きてきたのか、どのように死んでいったのかを投げかける。65年前に暮らし、生きてきた一人の少女。彼女と同じ時代、同じ時をYさんが生きてきたかたと思うとますますお話を聞きたくなった。
 「繋」3号の国方勲さんの「朴がいた町」文正夫さんの「夏休み」翔明子さんの「みかん」山本佳子さんの「詩人の死」。それぞれ書き手の意志が強く出ている作品でとても読み応えがあります。

 これはYさんが撮った写真(部分)